死因究明制度の解決策

日本の死因究明制度の改革を目指す自民党公明党の「異状死死因究明制度の確立を目指す議員連盟」の総会が去る8月3日開催されました。
この議連は私が国会議員であった時に事務局長をさせていただき、自民党として「死因究明推進法」を提出した中心的な役割を果たした議連であります。
今回新たに保岡興治会長から下村博文会長へバトンタッチされました。
石井みどり議員が事務局長をされ、国会での細川厚生労働大臣への質問が契機となり、今国会で超党派で診療関連死を含めた取り組みを行おうということで進められています。
平成21年に本議連が「死因究明制度に関する提言」を行いました。
今回は超党派でこの推進法案を成立させ診療関連死を含めた死因究明制度を新たに設立しようとするものであります。
本年は4月に犯罪死の見逃し防止に関する「死因究明制度の在り方についての報告書」が提出され、さらに7月には死因究明に資する「死亡時画像診断の活用に関する検討会の報告書」が提出され、政府においても死因究明制度に関するワーキングチームの設置がなされました。

死因究明制度の早期の改革は超党派で行うべき問題であり、これまで数々の問題点が指摘され議論は出尽くした感がありますが、制度の改革に向けての「死因究明専門医育成センター」の設置と拡充を平行に進めながら、制度全体の改革に取り組むべき問題と考えています。この推進法の成立を突破口とし、基本法の成立へと向かうべきだと思っております。

解剖の種類

 解剖の種類としては、一般に解剖の目的により分類する方法が用いられているようです。すなわち、下に示すように大学医学部で学生実習として行われる系統解剖、大学病院や解剖室を有する病院施設で行われる病理解剖、異状死体に対して行われる法医解剖があります。
日本ではこの法医解剖は犯罪性がある場合に行われる司法解剖と、死因が不明な場合に監察医制度がある地域(東京都・大阪市・横浜市・名古屋市・神戸市)で行われる監察医解剖(狭義の行政解剖)と監察医制度のないところで行われる承諾解剖に分類されます。
これらの解剖ができる死体解剖資格認定を持つ者や病理専門医認定を持つ者は人数としては多いように見えますが、実際に業務に従事している者は少なく、法医医師と同様に病理医も絶滅危惧種と言われています。
従って、根本的な制度の改革には、死因究明に携わる法医医師やそれを取り巻く数々のスタッフの絶対的な人員不足に対する抜本的な対策が必要であり、制度の改革は未だ険しいと言わざるを得ません。
ただ確かなことは、現行の警察庁中心の日本型の死因究明制度を進化させるにしても、米国型(監察医制度、メディカルイグザミナー型)、あるいは英国型(コロナー制度)を目指すにしても解剖医不足など制度改革を行うための働ける人材が決定的に不足している現在、当分抜本的な制度改革は望めないという事です。

そこで、各国の制度を比較し以下に我々が考える具体的なかつ実現可能な解決策について提案します。


1.「死因究明推進法案」の制定

多くの問題点を解決するためには、「死因究明推進法案」の制定が必要になるという事です。
具体的には内閣府に特別の機関として「死因究明推進会議(仮称)」を設置し学識経験者・警察庁・文部科学省・厚生労働省、法務省などの担当者を20名程度置きます。
この機関においておよそ2年以内に基本法の制定を行います。2年を過ぎて提案できない場合には推進法が廃案になることを記載しました。
これにより、この推進法を契機として基本法の制定を行います。会議もおよそ2週間に一度開催し、さらに1週間ごとにコアメンバーによる打ち合わせ会議を持ちスピードアップを図ります。
この基本法により時期を分けて制度の確立を行うこととします。すなわち、第一期に「人材の育成」、第二期に「体制施設の整備」、第三期に「制度の見直し」に入っていきます。

2.超法医医師(仮称)の養成

これまで述べたように我が国における死因究明制度のあり方が学会・行政・国民の間で問題視され、検討が行われており、これまでになく進展が見られるようになりました。これも各省庁間で死因究明制度の必要性に対して共通認識が醸成されてきたものと思います。
文部科学省は“絶滅危惧種”ともいえる法医の増加を図るための施策の一旦として、2010年度より東北大学・山口大学・長崎大学の三箇所で「死因究明医養成事業」をスタートさせ、「死因究明専門医育成センター」において法医医師の量的増加策に取り掛かっています。
これらの養成事業における最大の目的は、現在の法医医師の数を倍増するための拠点として設置されたものであり、将来的には法医学のみならず病理学、放射線読影学、法中毒学(Forensic Toxicology)、DNA鑑定など多岐に渡る分野の修得を目指すことを目的とした拠点ともいえます。
先の「死因究明推進法」が目指すところは異状死死因究明のみならず、診療関連死の分野での死因究明も目指すものです。
これまで議論されてきた“今までの法医医師”による臨床死因究明制度における解剖診断を行うものではありません。英国におけるコロナ(法務官)や米国における監察医(メディカルイグザミナー)のような法律の専門知識を有し、法医学・病理学・臨床の経験を積んだ言わば超法医医師の人材を育成し、強い権限を付与させようとする、制度改革を念頭に置いた提案として理解して頂きたいと思います。
ここでいう超法医医師の育成制度は必ず法医学からスタートする必要は無く、修得すべき科目、即ち、①臨床経験2年以上の医師が②法医学、③病理学、④放射線読影学(死亡時画像診断を含む)、⑤法中毒学、さらに⑥刑事訴訟法、民事訴訟法、また犯罪者心理学などの法律の知識を学んだ者を想定しています。

3.キャリアパスの構築

法医に進んでも大学の教授になれなかったら、現在のところ法医学とは全く別の分野の就職先を探さなくてはなりません。
そこで、インセンティブを満たすためにもキャリアパスとしての死因究明医育成センターのように、国や県レベルでの組織の構築が必要になってくると思います。
すなわち、解剖室を有する国立病院や、県立病院の施設内に法医解剖ができる施設を構築する方法か、大学の法医解剖室を借りる方法(神戸大学方式)を採用し組織を構築していく必要があります。
またもう一つの道として、死亡時画像診断の専門医や死体検案専門医として資格制度を構築し、将来的には診断科として開業できる道を開くべきだと考えます。
先例として最近では、病理専門医に対しての2008年に施行された病理診断科の例があります。

4.財源問題への取り組み

財源の確保については、国家が死因究明の制度の維持を行うのは当然のことと考えられ、地方自治体においては政策の受け皿の構築と、それに対する施設整備や人件費の設定を行うべきだと考えられます。
現在、検案料は死亡診断書作成料金(およそ5000円)と異なり、任意の金額が設定できることから、各医療施設でばらばらに設定されており、現在2〜3万円とも思われる検案料を一体につき5万円程度に上げることを提案します。ただし、これでは当事者の負担が増すことになるため、生命保険会社への働きかけを行う必要があるものと考えます。
死体検案料をあらかじめ組み込んだ保険料の設定を行い、国民に広く負担をお願いすることで、検案が行われる死亡例には保険会社から検案料が支払われるようになります。
保険会社に受益者負担の考えを導入することにより死因究明基金などの機構を使い、そこから補助金の供出を制度化することが考えられます。

5.死因究明制度のデーターベース化

現在問題になっている法医や病理医の量的・質的な問題は死因究明制度を全く新たに構築する上で必須の条件であります。
これらの制度改革がもたらす恩恵を国民が享受できるようするには、必ず膨大な資料の分析と解析が必要になってくるものと考えられます。
従って制度改革を行うのと平行しながら、症例の集積や犯罪死見過ごし例の調査・分析、誤認に至った原因、さらには死亡時画像診断の体系的分析(歯形やDNA)などを行う解析センターの設置が必要となります。
2010年からは厚労省による「異状死死因究明支援事業」、「死亡時画像診断システム整備事業」などがスタートし、これまでにない取り組みもなされるようになってきました。
今後さらにこれら事業の速度を上げて取り組む必要があると考えます。
やっとスタートした死亡時画像診断解析センター、あるいは死因究明専門医育成センターのさらなる活用と拠点の拡充も必要と考えられます。

今回、問題点の解決に役立つものと思われる解剖の種類や、各国の死因究明制度を含めた概略を提示しました。 参考にしていただければ幸いです。
詳しくは投稿しました医事新報の「死因究明制度の問題点と解決策」を参照ください。

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